こんにちは。四谷ラボのやましんです。
最近、ラボの電気代請求を見るのがとても怖い。エアコンの電気料金に加えて、パソコンの電気料金がバカにならない。
人工知能の脳みそを学習させるためにパソコンをフル稼働させると、月の電気代が急上昇するのだ。
やりたいこと
人工知能研究は我が国の未来への投資なので、電気代が高いことを理由に、研究を止めるわけにはいかない。ならばせめて、パソコンの排熱を何か有効活用できないだろうか?
「そうだ、温泉たまごを作ろう!」
こうして、パソコンの排熱を利用して、温泉たまごを作る計画がスタートした。 ちなみに、機械の発する熱などのエネルギーを利用して電力を得る技術を「エナジーハーベスティング」というそうだが、今回は電力を得るのではなく、排熱をそのまま利用するという考えだ。
エナジーハーベスティング(energy harvesting)とは、太陽光や照明光、機械の発する振動、熱などのエネルギー(エナジー)を採取(ハーベスティング)し、電力を得る技術を意味します。特に身の回りにあるわずかなエネルギー(エナジー)を電力に変換し活用することを目的とした技術です。別名では環境発電、エネルギーハーベスト、エナジーハーベスト、エネルギーハーベスティングと呼ばれています。
温泉たまご製造器の設計
遠足の前日は寝れないタイプで、何事も計画するのが一番楽しいものだ。しかし、計画通りにいかないから人生は楽しい。そして、この計画も・・・
要するに、このアイデアを形にするには、人工知能学習用パソコンの排熱をうまく外に出して、その熱でたまごを茹でれば良いのだ。
まず、温泉たまご製造器の構成を設計する前に、ラボで稼働しているパソコンについて簡単に紹介しよう。
人工知能学習用のパソコンは、GPU(Graphics Processing Unit)という並列処理に特化したプロセッサを搭載していて、主にこれを利用して人工知能を学習(深層学習・強化学習)させる。そして、このGPUが主な熱源となる。また、通常、GPUを冷却する装置も備えており、ファンを回して発生した気流でGPUを冷却する空冷型が一般的だが、ラボでは、水を循環させて冷却する水冷型を採用している。下の図だと、水は時計回りに循環している。
上図のとおり、GPUから出力される水が最も高温になる。ならば、この熱をどうにか利用して、たまごを茹でれば、おいしい温泉たまごができるはず。
ここまで便宜的に「水冷装置には『水』が循環している」という書いたけど、実際にはクーラントという腐りにくい特別な冷却水を使用しており、色も透明じゃなく青。こんな液体に、たまごを浸してしまうと、たまごの殻が青く染まって、食欲が半減してしまう。
なにより、クーラントボトルのラベルに描かれた、ドクロのマークがとても気になる。いや、これは間違いなく、アカンやつや。エンジニアの勘がそうささやく。
ということで、これを踏まえて、考えた構成が次の図。
GPUの直後に、もう1つラジエータを増設して、水を張った水槽に沈める。「クーラントの熱」と「たまごを茹でる水道水の熱」を交換すればよいのだ。確か、偉大な物理学者が、高温物体から低温物体へ熱が移動すると言っていた。・・・・知らんけど。
ここまで書いて、コンプラとか、怖気づいたので、はっきり言っておこう。良い子も悪い子も絶対にマネしちゃだめ。万が一、クーラントが口に入ったら、ドクロになっちゃうよ。
準備したもの
ラジエータ
水を張った水槽にこいつを沈めて、「クーラントの熱」と「たまごを茹でる水道水の熱」を交換する。
Black Ice Nemesis LS 140(幅:140mm、長:172mm、厚:29.7mm)
水槽
ラジエータを沈めて、水道水を満たす水槽。今回はアクリルで製作した。
水漏れだけは避けたいので、5mmの厚みを設けた。ラジエータを沈めることができ、茹でる時間をできるだけ短縮するために、大きすぎないサイズをデザインする。
ラジエータの長さ、幅が、それぞれ172mm、140mm。
アクリル板の厚みが5mm。そして、ケースとラジエータ前後左右の隙間をそれぞれ2.5mmで計算する。
アクリルの長さ、幅は、次の式で求まる。
長さ = 5mm + 2.5mm + 172mm + 2.5mm + 5mm = 187mm
幅 = 5mm + 2.5mm + 140mm + 2.5mm + 5mm = 155mm
次に、アクリルケースの高さは、ラジエータの厚みが29.7mmで、たまごを茹でるスペースを十分に確保したいので、150mmとした。
ホームセンターでアクリル板を買ってきて、切り貼りしてもできると思うけど、「餅は餅屋」ということで、アクリ屋ドットコムにお願いして、上記寸法のアクリルケースをオーダーした。お値段2,517円。届いたのがこちら。
チューブ
既存のパソコン冷却装置に合わせて、内径3/8インチ-外径5/8インチのソフトチューブ。増設するラジエータへクーラントを流入する。写真はサーマルテイクの商品。
フィッティング
チューブをラジエータに接続する器具。チューブの内径・外径に応じてサイズが決まる。 下記の商品名の10/16の表記は、内径10mm、外径16mmの意味。インチ換算だと、概ね3/8インチと5/8インチになる。
EK WaterBlocks EK-Torque STC-10/16 - Nickel x 2
クイックリリース(オス/メス)
クーラントを入れたまま、チューブの接続/分離ができる器具。
(左:オス、右:メス)
KOOLANCE QD3-MS10X16-BK No-Spill Coupling Male 3/8 x 5/8
KOOLANCE QD3-FS10X16-BK No-Spill Coupling Female 5/8 x 3/8
既存パソコンのGPUとラジエータを接続するチューブは、クイックリリース(オス/メス)を使用して接続している。
もう一組の同じ型番のクイックリリース(オス/メス)を購入して、増設するラジエータから引く2本のチューブの端に設置する。
こうすることで、温泉たまご製造器とパソコンの接続/分離が簡単にできる。
温泉たまご製造器を接続する際は、パソコン側のクイックリリースのオス、メスを分離して、それぞれを増設ラジエータ側のクイックリリースのメス、オスに接続すれば、温泉たまご製造器の接続が可能だ。
う~ん、なんかややこしいけど、要するに、二組の夫婦で、妻と夫を互いに交換する感じ。ん?
クーラント
チューブを延長するので、その中を循環する冷却水は多めに必要になる。
Thermaltake P1000 Pastel Coolant Blue 1000ml
エッグホルダー
ペンギンが、たまご6個を大切にホールドしてくれる。こんなかわいい調理器具が家にあったら、絶対にモテちゃうよ。(※当ラボ調べ)
PELEGDESIGN(ペレグデザイン)のペンギンエッグホルダー
エッグタイマー
たまごの茹で具合が一目でわかるエッグタイマー。茹で具合に応じて、外から色がだんだん白くなってという優れもの。半生→半熟→固めが一目でわかる。 こいつをエッグホルダーにセットして、半熟になるのを見届けるのだ。
ビックスワロー ゆでたま
パソコンのスペック(参考まで)
マザーボード Z270 GAMING PRO CARBON
CPU Core i7 7700K BOX
GPU NEB108TS15LC-1020J (GeForce GTX1080Ti 11GB Super JetStream)
ケース VIEW 71 TG RGB CA-1I7-00F1WN-01
電源 HX1200i CP-9020070-JP
メモリ CT4K16G4DFD8266 [DDR4 PC4-21300 16GB 4枚組]
SSD M8Pe PX-1TM8PeGN
CPUクーラー MasterLiquid Lite 120 MLW-D12M-A20PW-R1
温泉たまご製造器の製作
部品がそろったところで、いよいよ製作に入る。
最終的には、こんな温泉たまご製造器を製作する。
そうそう、その前に、どこの家庭にもあると思うので、あえて触れなかったけど、便利ツールを2つ紹介しよう。
一つ目は、チューブをきれいに切断できるチューブカッタ。ハサミだとまっすぐ切るのが大変。お父さんが葉巻を切るのに使うよね。
新潟精機 BeHAUS チューブカッタ TC-21
もう一つは、ラバーベルトレンチ。筒状で滑りやすいフィッティングをしっかり締めることができる。フィッティングによっては、モンキーレンチで挟みやすいよう面取り加工されているものもあるよ。今回使用するフィッティングは、これが無いとしっかり締めれない。
もし、彼女が『ねぇ、このジャムの蓋。固くて開かないわー』と言ってきたら、こっちのもの。こっそり、ラバーベルトレンチを使って、瓶の蓋を開け「なんだ、こんなのも開けれないのかよー。」と怪力をアピールしましょう。
SUN UP ラバー ベルトレンチ S φ100mm
では、気を取り直して、製作に入りましょう。
チューブの切断。
チューブカッターで、適当な長さにチューブを切り、チューブを2本つくる。
フィッティングとチューブを接続する。
できた2本のチューブのそれぞれの端にフィッティングを接続する。このフィッティングはコンプレッション型。他にタケノコ型もあるよ。
グリグリグリ。
チューブをフィッティングの根元までしっかり差し込む。
フィッティングの内側は六角形になっているので、六角レンチとラバーベルトレンチを使って、しっかり締めること。
同じものをもう一つ作ったら次の工程だ。
フィッティングをラジエータに接続する。
先ほど作成した、フィッティング付きのチューブを接続する。
ここでもラバーベルトレンチが大活躍。「これでもか!」というぐらい、時計回りにきつく締めても問題ない。高校生のとき握力70kgを誇った僕が言うのだから間違いない。ここをしっかり締めないと青い毒水がたまごを汚染してしまうことになってしまう。
2本のチューブをラジエータに接続できたよ。
チューブにクイックリリースを接続する。
レディーファーストということで、まずはメスのクイックリリースをチューブに接続する。フィッティングと同様にしっかりと根元まで押し込む。
モンキーレンチとラバーベルトレンチを使って、固く締める。クイックリリースの表面は面取り加工しているので、2本のレンチを使って締めることもできる。
オスも同様にチューブとしっかり固定する。
これで温泉たまご製造器ができたー。
アクリルケースに、完成した温泉たまご製造器とエッグホルダーを入れてみる。
おぉーーーー。なんということでしょう。あんなに無機質で退屈だった、温泉たまご製造器が、南極に湧き出る温泉を待ち望むペンギンたちに見えてきた。
温泉たまご製造器とパソコンの接続
いよいよ。パソコンと温泉たまご製造器を接続しまーす。
既存パソコンの冷却装置
パソコンの水冷装置は、こんな感じ。
右の筒状のボトルが、リザーバータンクとポンプが一体型になったもの。ポンプから出力されるクーラントは下側のチューブを通って、GPUに送り込まれる。そして、GPUで熱せられたクーラントは、パソコン天井に設置しているラジエータで冷却されて、再び、リザーバータンクに戻る。
ちなみに、このパソコンには上下2枚のGPUを搭載しているけど、上側のGPUは空冷なので、クーラントの加熱に、直接は貢献しない。
クイックリリースの分断
まずは、なによりパソコンの電源を落として、コンセントも抜いちゃう。
クイックリリースは、クーラントをチューブに残したまま分離できるけど、万が一のためにキッチンペーパーで養生してから、クイックリリースを分離しよう。
「それでは、今から手術を始める」「メス」
「あ”あ”あぁあぁーーー!!」
クイックリリースを分離した瞬間、大量のドクロ印の青い液体が・・・・。
「泡、あわわ、慌てるな、慌てるな」
出血したときは、患部を心臓より高い位置に持っていけば止血できるのだった。
ホッと一安心もつかの間。
『先生!漏れた青毒液が、精密機器に迫っています。』
「なに!誰か止血を心得た者はおらんのか?!」
『ずいぶん騒がしいようだが、私をお探しかね?』
かくして、青い毒液汚染の危機は、皮肉にも青い救世主によって阻止されたのである。
しかし、30万円相当のGPUが、「不燃ごみ」になる寸前のところを目の当たりにした著者が受けたダメージは大きく、「パソコンの排熱で温泉たまごを作ろう。」は暗礁に乗り上げるのであった。
こちらの記事に続く・・・。